人的資本投資を軸にした育成制度改革の試み

大成建設株式会社
管理本部 人事部 人財研修センター
人財研修センター長 田中 康夫様
国内外における建築・土木の設計・施工、環境、エンジニアリング、原子力、都市開発、不動産など幅広い分野で事業展開
1917年設立
従業員数 8,720名(2024年3月31日現在)
【TAISEI VISION 2030】と人的資本戦略の位置づけ
2023年に創業150周年を迎えた大成建設は、近年の著しい外部環境の変化に対応しつつ、安定した成長とレジリエントな社会づくりへの貢献を目指し、中長期的なありたい姿を示した【TAISEI VISION 2030】を掲げています。その第2フェーズにあたる【TAISEI VISION 2030】達成計画・中期経営計画(2024年~2026年)を2024年に策定し、経営の基本方針の一つに「人的資本」を挙げ、人的資本の拡充に向けた様々な施策を進めています。
これを受け、昨年より私は「育成制度改革」の陣頭指揮を任され、若手社員のキャリア形成を中心に施策を進めてきました。
育成制度改革の背景と課題
この「育成制度改革」については、長期雇用を前提とする環境下で、若手社員がキャリアに閉塞感を覚え、短期的な成長実感を得づらいという状況が課題でした。初期段階では成長実感を持たせるための教育や配属に焦点を当てていましたが、「各部門の求める人財像」と「社員の資格・行動要件・適性データ」の見える化に取組み、キャリアに対して「情報提供」と「支援施策」の両輪で進めていくことで、新たな可能性が見えてきたと思います。
この可視化には、既存のデータだけでなく「Talent Analytics」による性格・価値観の数値化が非常に有効でした。この仕組みを活用することで、自身のキャリアの見通しが立てやすくなり、部門ごとに求められる業務遂行能力の可視化にもつながると感じています。
個々の部署に求められる能力や資質の可視化
では、どのようなプロセスを辿ったのか。最初に取り組んだのは、若手キャリアのロールモデルを数値化することです。資格データや行動要件は自社のモノを使いましたが、より潜在的な能力にも焦点を当てたいと考え、「各部門が持っておいてほしいと考える潜在的な能力」については、Talent Analyticsでみていきました。
具体的には、適性検査「Talent Analytics」オプション内の“求める人財可視化サーベイ”と“求める要件インタビュー”により、室長以上が「若手に求める人財像」をアンケートで回答し、その回答を元にエン・ジャパンさんにインタビューを行ってもらいました。
例えば同じ部門であっても、部門長と各室長の求める人財像にブレがあったり、その部署が求めているコンピテンシーとは別の項目の要件が候補に挙がってきたり。インタビューでは、第三者の視点から結果を細かくチェックしていただき「その部署、仕事の意義・存在価値」「(求める人財像と聞いて)誰を想起したのか?」といったことから、「なぜその(適性検査上)の項目が必要となるのか?」「仕事で発揮される具体的なシーンはどこか?」「それがないとなぜ厳しいのか?」など質問を重ねていただきました。その過程を含めて社員に共有することで(後述する映像化)、社員のロールモデルへのイメージが高まったのではないかと考えています。
若手社員へのTalent Analytics受検を通じたキャリア自律の促進
次に取り組んだのは、若手社員へのTalent Analytics受検を通じたデータ収集と活用です。このプロセスでは、単にデータを集めるだけではなく、受検結果を研修の一環として「自己理解」を深める目的で社員にフィードバックしました。この取り組みを通じて、若手社員が自分自身の強みや課題に気づき、キャリアへの閉塞感を打破するきっかけを提供できたと感じています。また、データで得られた各個人の価値観は「HROnboard」等のエン・ジャパンの他システムを用い、社員をフォローする際も有効です。

キャリア意識の醸成と見える化の推進
さらに、インタビューの様子を撮影・映像化し、社内の「キャリアチャンネル」で公開する試みも行いました。実は、この取り組み自体は当初の予定になく、副産物的な意味合いが強いのですが、社内での評判は上々で、このコンテンツを通じて、若手社員が「将来このような部署で働きたい」「必要なスキルを身につけよう」と前向きに考え、行動を起こす契機を得られるようになりました。社内で活躍する人財をデータ化し、社内共有することは、部門と社員を繋ぐ役割だけでなく、部門間の相互理解の高まりを通じて、当社が現在行っている風土改革にも大きく寄与していると思います。
これらの取り組みの一環として、「キャリア図鑑」を構築し、それぞれの部署で活躍する人財のキャリアや資格情報などの見える化を進めています。この「キャリア図鑑」や「キャリアチャンネル」により、社員のキャリア自立意識を高めるだけでなく、成長実感の向上や離職防止といった具体的な成果を狙えるのではないかと期待しています。
今後の展望
今後はさらに施策を進化させ、より多くの社員が主体的にキャリアを描ける環境を整え、「働きがい」や「働きやすさ」を追求し、【TAISEI VISION 2030】とその後を担う人財を育成していきたいと考えています。